サラブレッドとデザイン

私の必読書に「サラブレッド血統大系」がある。毎晩、目を通す。良質のサラブレッドを生産するには、これに「競馬成績公報」を加え、血統の調査をする。
私は馬が好きである。私が今日デザイン業で曲がりなりにでも仕事をしているのは、幼少の頃、父が馬術をしていた関係で、馬や馬具等に接する機会が多く、その観察を描くことに人一倍の興味を持ったことが強く影響しているのかもしれない。否、小さい頃の私を知っている人は、そうだと言う。

馬への興味が執念となって1970年、生きた馬を創るきっかけを得た。
北海道に軽種馬生産育成牧場を開設し、未知の分野であるサラブレッドの生産に取り組んだ。北海道へ向かうときは馬づくりを想い、大阪へ帰ってくるときにはデザインのことを考えるという、いささか中途半端で、一見矛盾したような行動が十数年続いた。
デザインと馬づくりという、かけ離れた異分野への挑戦はやはり難関山積みであった。暗中模索の連続ではあったが、未だ挫折せずにいるのも、モノづくりに携わるデザイナーとして教えられることがあまりにも多いからだ。それは、サラブレッドが「競馬場でより早く走ることのみを目的に作られた付加価値の高い製品」という視点でとらえる立場(生産)に身をおいているからであろう。

グッドデザインの商品が、優れた性能や機能をその外観にも表しているように、良質のサラブレッドも、出生時にすでに、より早く走る素質を馬格に表している。
この時点のサラブレッドは商品開発で言えば、情報収集、分析、アイデア模索を経て、基本デザイン構想が決定される新製品開発段階に相当する。
即、どの血統が繁えているか?どの種牡馬が良い産駒成績を出しているか?などの調査を終え、交配による血の改良をする。
育成時点は、基礎教育として馬に人間の意志を伝達するための手段と理解力を養い、基礎体力を増強する。いわばこれが製品計画段階であろう。
調教、騎乗時点では、基礎学習や体力をターゲット(マイラー<短距離>、ステイヤー<長距離>、障害など)に合わせて最大限に発揮することであり、商品化計画段階に当たる。
だが、グッドデザインの商品が必ずしも市場で評価されるとは限らないように、良質のサラブレッドもレースで必ず好成績をおさめるとは限らないのである。

サラブレッドが本来の目的を達成するには、血統、生産、育成、調教、騎乗という横断的な協力体制が必要である。それにもまして大切なことは、サラブレッドが「生きた芸術品」とまでいわれるように、魂を持った生き物のモノづくりだという事だ。このことをデザイナーのモノづくりにも活かしてみたいと思うのは、至難以前に僭越であろうか。

DAS会報 掲載物改訂

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